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部活が終わり、帰り支度を済ませて部室を出ると空はもうすっかり日が落ちていた。
大和からの帰りの誘いをさり気なく断って、晴人は職員室へ急ぐ。校舎へ入ったところで、丁度廊下の向こう、職員室から出てくる担任の谷川の姿が見えた。
「谷川先生!」
廊下の端から声を張った晴人に気づいて、谷川は「おお、高坂。部活上がりか」と気さくに声を掛けながら歩み寄ってくる。
谷川は二十代後半の数学教師で、校内の教師陣の中ではかなり若い層に入るが、生徒と歳が近いこともあってか、話しやすいので生徒からも慕われていた。
「お疲れさん」と労ってくれる谷川に「お疲れ様です」と軽く頭を下げて、晴人は改めて谷川に向き直った。
「先生。あの……黒執のことなんですけど……」
「黒執?」
晴人の挙げた名前に谷川が一瞬きょとんと目を丸くしたのを見て、放課後の大和の反応がフラッシュバックする。まさか担任の谷川まで黒執の名前すら覚えていないのだろうかと一瞬不安になったが、「黒執がどうかしたのか?」と谷川が続けたので、晴人はホッと息を吐いた。
───ところが。
「アイツ、ずっと学校休んでますけど、何かあったんですか」
そう晴人が問い掛けた直後のことだった。
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