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「言ったろう?君にはそんな悪夢がお似合いだと。」
あの悪魔の声が聞こえた。
くつくつと喉奥で鳴らす笑い声がやけに癪に障る。
嘲笑うような声色に嫌気が差し、僕は耳を塞いだ。
くぐもった化物の声が脳を貫く。
僕にはもう何も聞こえない。
何も聞きたくない。
「考えを改めなよ。いつまでそうして自分が可哀想な奴だと思っているつもりなんだい?」
知らない。そんなの。
俺は何も。
「君の人間性を疑うよ。確かに君は悪いことなんか何もしていない。それでも僕はお前を殺すのを、悪夢を見せることを止めない。何故だと思う?」
嫌だ。
いや。
「君が彼女を忘れない為だ。」
お前も彼女と同じ苦しみをしればいい。
愛する者に呪われる恐怖を。
「あああああ…!!」
目が覚めると、見慣れた天井が視界全体に広がっていた。
それでも久しぶりだと思うのは退院したばかりである為か。
寝間着は汗でぐちゃぐちゃになっており気持ちが悪い。
呼吸も上がっていて気分がいいのか悪いのかよく分からない。
なんだか、またあの夢を見た気がする。
数年前にいなくなった彼女の夢を。
あの日見た景色。
穏やかな水色の波に映える黒髪。
柔らかな白を纏った肌。
痛みも孤独も全て受け止めたその切な気な表情数年前まで僕の前では決して笑わなかったその顔。
氷が張り付いたような淡い光。
彼女は僕に足りないものを全て持っている。
そう思えた。
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