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君は覚えているだろうか。
2人で靴を脱ぎ捨て浅瀬を渡り歩いたあの日を。
夕暮れが溶け出す寸前の暖かい橙色に世界中が包まれて、君の真っ黒な横髪が彩られた。
冷酷でおとなしい彼女は淡い色彩を纏ったままはしゃぎ出し、平然と少し前を歩いていた僕を追い越していく。
けたけたと愉快に笑う彼女を追いかける為、待ってくれよと走りづらいべちゃべちゃした白い砂の上で小走りした。
懐かしい思い出だ。
きっと彼女もそう言うだろう。
あの頃の僕ららしい、色褪せた美しさ。
僕はそれを汚すつもりなんか無い。
でも、君が終わりにしようと言うのなら、僕はそれでも構わない。
そういうものだろうな、で済ますことにしよう。
こんなもんだったんだな、で終わらせてしまおう。
最初から分かっていたんだ。
君は本気で僕を愛そうとなんかしていない。
そんなに美しい君が僕なんかに惹かれるわけがない。
同じ会社で、同じ部署で、たまたまデスクが近かっただけ。
本当にそれだけだったのに。
どこでどう食い違ってしまったのか。
お互いを愛し愛されないまま僕らは同じ時間をゆっくりと消費していた。
もっと一緒に居たかったなんて、そんな戯言も泡になって消えてしまうほどに。
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