#6 新たな命

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「素晴らしい人間…?僕が…そんなの嘘だよ。」 「お前の素晴しさは時代の流れによって変形し、歪み、姿を消した。お前はただの平凡な人間になったんだ。覚えてないか?昔大事にしていたもの。」 「…そんなの、忘れた。あったかも分からない。」 「これだよ。ほら。」 そう言うと彼は何処から取り出したのか、ぼんやりと見覚えのあるアコースティックギターを僕に手渡した。 「お前には音楽の才能がある。」 「え。」 「懐かしくないか。それ。一時期は本気でミュージシャンを目指したじゃないか。忘れてしまったかい?」 「…そういえば。」 「だろ?今、それを目覚めさせるときだ。」 「でも、もう音楽なんて何年も聞いてないし…ギターも弾けるかどうか…」 「聞いてるか聞いてないかなんてどうでもいい。弾けるか弾けないかなんて関係ない。やるんだよ!その震える魂を覚醒させろ!長年仕舞っておいた音楽への情熱を、愛を、叫びを目覚めさせるんだ!お前の手で!」 「!…」 「それがお前の生まれ変わる道具のひとつだ。窓際族なんてまっぴら御免だろ?お前は、江ノ原直樹は生まれ変われる!もっと素晴らしい人間にな!」 「…出来るかな、僕に。」 「出来るともさ。何年も先にいた俺が全てを投げ出してこう言ってんだ。信じられるのは己だけ。なら、俺の話だって信頼出来るはずだろう?」 「…」 この人は僕で、僕はこの人だ。 しかもそのあと死ぬと言う。 僕なんかの為に。 彼は僕を導いてくれていたのだ。 信じられない訳がない。 「ありがとう。やってみるよ。」 「それでこそ俺だ。よく言った。」 「君の言う通りにしてみる。頑張ってみるよ。僕の為に、ありがとうね。」 「…じゃあ、俺の役目はもう終わりだな。そろそろ未来に帰らなくては。お前の安否を彼女に報告してくる。」 「待って。」  「ん?何だ?」 「最後の仕事。今日も僕を運んでよ。」 「…今世最後の地獄巡りか?いいぜ。付き合ってやろう。」 「今日は地獄じゃないんだなぁ。」 「他に行き先があるのか?」 「歓楽街まで。」  「…大都市の方か。若いっていいな。」 「ははは。あんたも十分若いくせに。」 「こちとらお先真っ暗だ。今日でこの世とおさらばなんだからな。」 「…僕のせいだね。ごめん。」 「別にいいさ。お前を更生させることも出来たし。今と全く違う自分を見るのもつまらなくはなかった。」
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