#6 新たな命

5/5

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
元の世界に戻ってきたのか。 なんだか寂しかったような。でも彼と共に居れるのはそれほど長くないということも感じてはいた。現実に僕がふたりもいるだなんて世界が混乱してしまうだろうから。 まったく、不条理で理不尽で、こんなの信じられないなぁ。 何もかも笑い飛ばしたくなるその気持ちをぎゅっと抑え、昔通うように行っていた高層ビルの楽器専門店に向かった。 あそこの店主と会うのも久しぶりだ。元気でいるだろうか。 その後はどうしよう。今夜は何処かで美味しいご飯が食べたい。久々に奮発して外食しよう。一足早い退職祝いだ。豪勢に行ってしまおうか。油ものは控えておこう。胃もたれするから。待てよ。これじゃ僕が年寄りみたいな奴になってしまうじゃないか。ついさっき彼に若いっていいななんて言われたばかりなのに。あぁ、本当に年って嫌だな。美味しいとんかつでも食べに行こう。 その日。 僕は社畜を辞め、夢を追う者に生まれ変わった。 これも全て彼女や彼のおかげだ。 勿論、困難や苦悩もあるかもしれない。もう辞めようかと思うことがあるかもしれない。 そんな時はこの摩訶不思議な出来事を思い出して、彼や彼女の想いを乗せて、感謝も希望も忘れずに、生きていこうと思う。 溢れかえるほどの人混みの中に上手く擬態しながら、僕は改めて少年の頃見た夢の続きを思い描き始めた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加