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うにゃあ。
濁った鼻に掠る鳴き声が聞こえる。
不快感の波の中、重い瞼を持ち上げると目の前には少し太り気味な三毛猫がちょこんと僕の腹の上に座っていた。
なんだ。お前だったんかい。
夢に出てきた内臓に乗っかってくる重みはこの我が愛猫、モモの仕業だったのだ。
久しぶりに悪夢らしい悪夢を見てしまった。
やけにリアルでとても怖い夢。
心なしか呼吸も荒く周りから酸素がすぐ無くなっていって少し息苦しい。
額にはじんわりと嫌な汗が浮かび体内の熱を奪っていく。
あたたかさが逃げていくその感覚が嫌で、僕は大人しく腹から退こうとするモモを抱き寄せた。
うううと可愛らしく唸りながらすっぽりと腕の中に収まるこの愛くるしさといったら。
ちょっと可哀想だけど抱かれていることに何も抵抗せず目を瞑った可愛い可愛いモモを抱え、朝の支度を始める。
今朝も寒い。
マグカップ一杯のお湯にインスタントコーヒーの素を少し少なめに入れ、ダイニングテーブルの上に置く。
これを飲むのはすべての準備が終わった後だ。
猫舌だから熱々のコーヒーなんて飲めないのだ。
少々ダサい理由であるが体質だから仕方がない。
自室に戻りクリーニングしたてのスーツを着てノートパソコンが入った鞄を手に持つ。
不覚にもしっくりとくる格好だ。
一日の半分をこの服で乗り越えているから、仕方がないことだろうけど。
スーツなんて僕にとっては学校の制服のような感覚。
私服で仕事をしている人もよく見かけるけれど僕にはセンスがないから格好は自由だなんてことがなく逆にありがたい。
きっちりしている服のほうが好きでもある。
よくふわふわした髪型だから似合わないと言われるが。
好みなんて人それぞれなんだから首突っ込むなってな。
口が裂けても直接言わないけれど。
人前ではいつもニコニコしていないと怒られてしまうから。
ベッドに寝転ぶモモを撫で、リビングに戻りコーヒーを啜る。
全部終わらせた後に飲むとちょうど飲みやすいくらいに冷えているのだ。
いい感じにこのじんわり広がる苦味が美味しいだなんて、僕も大人になったのかな。
子供の頃は一ミリも受け付けなかったこの味も今はいい香りだと思える豊かなふわっとした香りも。
初めて美味しいと思えたのは大人になってからか。
食生活もまともに改善できないほど社畜と呼ばれるこの人種には人権などないように見える。
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