流れのケンちゃん

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ケン「……ぼくたちが会ったのはさだめ橋という名の交差点です。出会いは運 命(さだめ)だとハナちゃんが云ってたけど、ぼくもそう思います。そして運命、みずからの業にあらがうという意味でなら、確かにぼくたちは気が合いました。社会に、畢竟自分に向き合えず僕は外国に逃げ、一部の人間の汚さにハナちゃんも一時道をはずした。世の負け組と思われるかも知れませんが、さだめ橋を渡った僕たちはそうは思いません。ハナさんに教えてもらった、我心の仇こそを見据えつつ、ぼくはこの先も生きて行く。ハナさんがいなくとも、もはや逃げることはない!…お二人とも、もしこの先逆境が襲ったときにはこの話を思い出してください。まことの敵はお二人の心の中にいる、廻りじゃあない。そいつが二人の仲を裂こうとした時には、戦ってくださいね。いつまでも仲良く…ね」 ミツ「らんらん、ケンさん、ありがとう。この先誰かといっしょになっても、 姉ちゃん、忘れんのいて…うちのよか男って、姉ちゃんば云いよったけん…」 ケン「ミッちゃん!誰が…(嗚咽する)」 客A「あきれた。店の中で泣きよる」 杉浦「…(客Aに)こらえてつかさい。奥さんば亡くなりましたけん」 川から船頭の歌う舟歌が笛や太鼓の音とともに聞こえてくる。「たとえかざした雛じゃとて、務めはたせば流さにゃならん。わしも船頭、流れ行く。浮き世の業に染めた身は、雛に免じて、えー、流れ、ただ流れ行こうえ…」(了)
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