カナリア

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カナリア

私は今、恋をしている。 お相手はクラスメイトの11歳の男の子。 名前? そんなのもちろん知ってるわ。 えーと、 騒がしい教室の隅に一人取り残された私は、あからさまに目を泳がせる。 男の子の方を見た。 男の子が視界にはいると同時に思い出したように頷く。 そうだわ。名前は珠樹。 ほら、やっぱり知っていた。 「珠樹くん」私は恋する男の子の名前を呼んだ。気づいてほしかった。 気づけ!気づけ! 「珠樹くん!」声を張り上げた。 珠樹くんがこちらを振り向いた。 嬉しくて仕方なくて、「ねぇ、好きよ」私はつい、独り言のような口調で愛の告白を漏らしてしまう。 混乱した。 「いや、違うのよ、そうじゃないの…ただね」心にもない言葉が波のように口から溢れていく。 クラスメイトの冷たい視線が私にのし掛かかった。 加えて教室中の空気が重くなっていく。 だけれど、私は恋する乙女なの。 これくらいどうってことないわ。 珠樹くんさえいれば、何もいらない。 「私はそれくらい珠樹くんが好… 「うるさいなぁ」愛の告白を遮ったのは珠樹くん。なじるような目で私を睨んだ。 「え?今なんて言ったの?」私はキョトンと首を傾げた。 現実逃避などではない。 本当に何を言っているのか、わからなかった。 「なぁ、このカナリアって鳥うるさくね?」珠樹くんが、私を指差し、辺りを見渡した。 クラスメイトは皆そろって「そうだね」と共感しあう。 「何をいってるの?」私は翼を広げ、更に首をかしげた。 わからなかった。 私は珠樹くんが好きよ。 何が違うの? 何がいけないの? ふいと、目尻を吊り上げた珠樹くん。ハッキリ「勉強の邪魔だ」と発音した。私のガラスのお家を指一つで動かす。 何が起こっているのかわからなかった私は、ただ、お家の中で大人しくしていた。 「どうせ、修哉君は勉強しないんだから鳥がいても、いなくても同じじゃない」クラスメイトの一言に「それは…いま…関係ないだろ」珠樹くんはそっぽを向いて唇を尖らせる。 教室がドッと笑いにつつまれた。
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