第一章ヤンキー娘、異世界に行く

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それを聞くなり頭上でちっ、と小さく舌打ちのようなものが聞こえた。そして、その機嫌の悪い様を隠すようでもなく、目の前のおっさんに返答する。 「こちらはトーカ殿だ。我が隊員並びに我が国を守って頂いた方だ。失礼の無きよう、この方に接しられよ。私は一刻も早く、この非礼を正しに王城に向かう」 そう言ったかと思ったら馬上からベルナールが降り、ついで私を荷物のように降ろした。 お前が一番酷くねぇか? そう思いながら、私が引き渡されるであろうおっさんを改めて見て吃驚する。 馬上に居てもその体格は大きく見えたが、降りて見れば馬上で見た以上だった。身長が2m以上、しかも筋肉ムキムキであった。 私は身長165cmだが、首が痛いぐらいに垂直にしなければ目線が合わない。そのせいか、もしくは私に誠意を表す為か、目の前の大男は膝をついて私と目線を合せてこう言った。 「トーカ殿、私はラムス。我が兵並びに我が国の窮地をお救い頂きお礼を申す。今ご説明申し上げた通り、貴殿の身柄は暫し私がお預かり申す。トーカ殿を疑うような振舞いには申し訳なく思うが、必ずやベルナール殿が王にご説明申し上げ、然るべき処遇を下されようぞ。それまで我が屋敷でゆっくりされるよう」 私の手を取り、豪華な馬車に誘導される。 少し不安になり後ろのベルナールを見ると、さっさと王城に向かっていた。 余韻もないんかい!! そんな突っ込みをした後、捨てられた仔犬のような感覚に見舞われた…。 今日会ったばかりのベルナールに、健太のような親しみはないが、それでも自分達を助けてくれたという恩義の気持ちが私に伝わり、一緒にこの国について行っても良いと思わせた人間だった。 ハァー…と大きな溜息をついて、仕方なくおっさんに誘導されるまま馬車に乗る。意外と馬車の中は広くゆったりしている事にほっとした。 フカフカの席に座る。クッションの良さに、さっきのケツの痛さが和らぐなぁと思っていたら、突然ギシッと馬車が傾く。えっ?と思って入って来た扉を見ると、大男のおっさんも乗り込んで来た。 おっさんが座わると馬車がおっさん側に傾いた。 『・・・。』 馬車の天井に頭をぶつけないよう猫背で座るおっさん。 おっさんが馬蹄に「出せ」と指示を出すと、斜めに傾きながら馬車がとろとろと動き出したのだった……………。
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