第一章ヤンキー娘、異世界に行く

28/177
前へ
/820ページ
次へ
召喚された者の事をこちらではそう呼んだ。 召喚は誰でも出来る訳ではない。脈々と続く高貴な血と場所があってそれが可能となる。 それが出来る所は、この世界で唯一あの国しかない。目の前の宰相もあの大国を、そしてあの王を今頭に描いているだろう…。 「だが、あの国は20年前の召喚事故でそれを禁忌としたはず…。何故その禁忌を破ってまで召喚したのか…」 暫く考えて、一度その女子に会って色々と聞かねばなるまいなと呟いた。 「お会いになるのであれば、こちらの世界の事などその者に説明して頂ければ、有り難いかと…。また、出来うるならば兵士一同の願いとして、その者に我等の命救われた恩義を返しとうございます。王よりその者が望む"対価"を与えて頂きたく」 「金品という言葉でなく、対価ときたか。何を考えておる?」 「別に…。普通の者と違い現状の立場が違います。普通の者ならば生活を潤す金品は素晴らしい対価と思われますが、別世界の"迷い人"にとっては、金品より価値のあるものが別にあるかと思いまして」 「えらく肩入れしているのだな」 「恩義でございます」 「まぁよい。王にはそのように進言しよう。おって詳細を連絡する故、その時貴君も同席するように」 「御意」 「話は以上だ。貴君も疲れたであろう。帰って休め」 「では…これにて」 そう言って室を出ようとした時後ろから呼び止められた。 「ベルナールよ無事で何よりであった。これは父としての言葉だ」 「……ありがとうございます。父上」 そう言って扉を閉めた。 怒りで宰相が父という甘えから、分を弁えずにした行動を今になって恥じた。ラムス殿も言っていた。 "素性の知れぬ者ゆえ、このまま王城へはお連れ出来ぬ" その通りだ。いかに私が怪しくないと言っても、信じられる確証がない…。父上があのラムス殿に預けたのは、その確証を得る為だろう。 はぁ…と溜息をついて王宮の廊下を歩いていると、向うから見知った男がやって来た。
/820ページ

最初のコメントを投稿しよう!

472人が本棚に入れています
本棚に追加