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召喚された者の事をこちらではそう呼んだ。
召喚は誰でも出来る訳ではない。脈々と続く高貴な血と場所があってそれが可能となる。
それが出来る所は、この世界で唯一あの国しかない。目の前の宰相もあの大国を、そしてあの王を今頭に描いているだろう…。
「だが、あの国は20年前の召喚事故でそれを禁忌としたはず…。何故その禁忌を破ってまで召喚したのか…」
暫く考えて、一度その女子に会って色々と聞かねばなるまいなと呟いた。
「お会いになるのであれば、こちらの世界の事などその者に説明して頂ければ、有り難いかと…。また、出来うるならば兵士一同の願いとして、その者に我等の命救われた恩義を返しとうございます。王よりその者が望む"対価"を与えて頂きたく」
「金品という言葉でなく、対価ときたか。何を考えておる?」
「別に…。普通の者と違い現状の立場が違います。普通の者ならば生活を潤す金品は素晴らしい対価と思われますが、別世界の"迷い人"にとっては、金品より価値のあるものが別にあるかと思いまして」
「えらく肩入れしているのだな」
「恩義でございます」
「まぁよい。王にはそのように進言しよう。おって詳細を連絡する故、その時貴君も同席するように」
「御意」
「話は以上だ。貴君も疲れたであろう。帰って休め」
「では…これにて」
そう言って室を出ようとした時後ろから呼び止められた。
「ベルナールよ無事で何よりであった。これは父としての言葉だ」
「……ありがとうございます。父上」
そう言って扉を閉めた。
怒りで宰相が父という甘えから、分を弁えずにした行動を今になって恥じた。ラムス殿も言っていた。
"素性の知れぬ者ゆえ、このまま王城へはお連れ出来ぬ"
その通りだ。いかに私が怪しくないと言っても、信じられる確証がない…。父上があのラムス殿に預けたのは、その確証を得る為だろう。
はぁ…と溜息をついて王宮の廊下を歩いていると、向うから見知った男がやって来た。
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