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 苦痛からか、荒い息を吐きながら頭を振り立てる獣の眉間にもう一発撃ち込むと、大きく天を仰いだ後、どすん、と音を立てて地面に(こうべ)を垂れた。  男は猪の傍に膝をつくと腰に差していた大振りの刃物を引き抜く。  厚みのあるそれは刃渡り二十センチ弱。柄に巻きつけられた革は使い込まれた年数を示すように変色している。年季を感じさせるがよく手入れされ、刃は青白い光を放つようだった。  それを逆手に持ち替え、躊躇せず猪の心臓に突き立てた。  すぐに血抜きをしないと生臭くなってしまう。 「ここからなら、沢が近いな」  呟くと、指笛を吹く。  ピュイ、と軽やかに響いた数秒後、それに応えて草むらから飛び出してきたのは一頭の中型犬。  真っ白な毛に覆われたがっしりとした体つきと、ピンと立った耳。聡明そうな精悍な顔つきの紀州犬は、男を認めるとするりとその隣に寄り添った。 「向こうの罠は掛かってなかったか。無駄足を踏ませたな、白露(はくろ)」  頭を撫で首を掻いてやると、白露は嬉しそうに目を細め男の首筋に鼻先を寄せる。 「こいつを沢に運ぶのを手伝ってくれ」  白露は返事の代わりに男の頬をひと舐めした。  男は罠を外して、腰に提げた革製の袋からロープを取り出し、手際良く猪の首に掛ける。  白露がロープを咥えたところで立ち上がった男は、ふと首を巡らせた。     
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