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食べ終わるとごちそうさまもなく席を立ち、母はバスルームへ、父はグラスと酒を手にリビングのソファへ腰を落ち着けた。
「おい、つまみ」
「あ、はい」
やや不機嫌な声で要求する父にびく、と肩を震わせて返事をし、簡単なものを二、三品作ってテーブルに置いた。
深手を負った禍津神は、夜の街をさまよっていた。
『おのれ、言霊師め……!もっと力を蓄え、必ずや屠ってやろうほどに』
そのためにはまずこの傷を癒さねば。
力を。
誰でもいい。
あの小娘に匹敵する力を宿した言葉を。
ささやけ
それが我が血肉となり活力となる。
キッチンで片付けを済ませた小夜は、まとめたゴミを抱えて勝手口を出る。
裏口に置いた大きなプラスチック製のゴミ箱に入れて蓋をしてから、深く息を吐き出した。蓋を開けたことによって漂う生ゴミの異臭。小夜はじっと蓋を見つめて小さく口を開いた。
「――――― 消えればいいのに」
誰も彼もみんな。
消えてなくなればいいのに。
低く呟いたそれを、雲間から僅かに顔を出した月だけが聞いていた。
否。
もうひとつ。
彼女の背後に忍び寄る影が密やかに嗤う。
『―――――― 我が力を貸してやろうか』
誰もいないと思っていた裏口の狭い空間で、小夜は大きく体を跳ねさせて鋭く振り返った。
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