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 身支度を整えてダイニングに入ると、家政婦の安藤美由紀が「おはようございます」と機械的に告げる。「おはよう」と返してテーブルにつくと、待ち構えたように朝食が置かれた。  安藤は母がいなくなった六年前から雇われていて、愛想はないが腕のいい家政婦だった。  テーブルの向かいには父が新聞を広げているが、挨拶どころか一瞥すらしない。  亜月の方も父を視界に入れないように食事を済ませて、「ごちそうさま」と早々に席を立った。  学校へ向かう道中もずっと昨夜のことを考えていた。  それなのに遅くなるどころかいつもより早く着いてしまい、教室には誰もいない。  鞄を置いて、どうしようかと考える。  図書室もまだ開いていないだろうし、特に具合が悪いわけでもないのに二日続けて保健室も行きづらい。  何気なく窓の外へ目を向けると、中庭の立木に花が咲いているのが見えた。 「……あれ、何の花だろ」  窓際に近寄ってみるがよく分からない。  どうせ時間もあるし、下りてみることにした。  普段あまり立ち入ることのない中庭は、随分きれいに整備されていた。     
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