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 芝生は刈り込まれ、背の低いバラの生垣が連なり、ぽつりぽつりと配置された立木は、亜月もいくつか見知ったものがあった。とはいっても、ごく一部だけだが。よく見れば、木々の足元には小さな札が据えてあり、名前や種類、恐らく植えた日であろう日付が入っている。それらの下に小さく「園芸部」と控え目に記されていた。 「へえ……この辺りは全部椿なんだ」  札を眺めながら中庭を進み、教室から見えた木を探す。 「ええと……、教室があそこだから……もう少し先」  校舎を見上げて確認し、一歩踏み出した時。 「酷いじゃない! 」  聞き覚えのある声が耳に届いて、思わず足を止めた。 「それじゃ話が違う! 」  木立の陰からそっと窺うと。 「………小夜? 」  背を向けてはいるが、緩くウェーブしたボブスタイルは見慣れたものだったし、何よりも声が、彼女で間違いない。  小夜の背中越しに、数人の女子生徒がいるようで、どうやら何か揉めているらしい。 「何が? 別におかしくないよねえ? 」  同意を求める誰かの声。「おかしくないよ」と2、3人の声が肯定する。 「だって、最初の話では私が亜月と友達になれば、こういうこと、しないって……」  だんだんと勢いをなくす小夜を、誰かが笑った。 「こういうことって? 」 「こういう、嫌がらせよ! 」  そう言って、手に持っていたノートらしきものを彼女らに突き出す。  苛立ったように荒げた声は、けれど泣き出しそうに震えていた。 「嫌がらせ? ノートを可愛くしてあげたんじゃない」     
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