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 午前中の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴る。 「亜月、お弁当食べよ」  いつものように、小夜がお弁当を抱えてやってきた。  朝、亜月が立ち聞きしていたことを知らないのだから、当然と言えば当然。亜月はついじっと彼女を見つめてしまい、小夜が怪訝そうに眉を寄せる。 「なに? なんかついてる? 」  我に返って、目を瞬かせた亜月は、少し考えて首を振った。 「……何でもない」  向かいの席に座ろうとする小夜に、思いついて言った。 「ねえ、今日は中庭で食べない? ベンチがあったよね」  ふと、小夜の顔が強張った気がしたが、すぐに笑って「いいよ」と頷く。 「でも、どうしたの? 珍しいね」 「さっきちらっと見たら花が咲いてたから。たまにはいいかな、と思って」  教室を出て連れ立って歩きながら苦し紛れに言うと、小夜は特に気にした様子もなく「ふうん」と相槌を打った。  中庭はなかなか穴場で、他の生徒の気配はなく、見つけたベンチに二人で並んで座る。  膝の上でお弁当を広げると、小夜が辺りを見回しながら訊ねた。 「花ってどれ? 」 「え? ……ああ」  少し迷ったものの、少し離れたところにある立ち木を示す。 「あれ」     
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