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その指を追って首を伸ばすようにした小夜は「ああ、ほんと」と顔を綻ばせた。
「咲いてるね。何の花だろ」
「アベリア、って書いてあった」
「書いてあった? 」
「そう。……今朝、早く着いちゃって。教室から中庭を覗いたらあの花が見えて。私も何の花か気になって見に来たの」
目の端に、小夜の手が箸を握りしめるのが映る。
それを意識しながら続けた。
「木には全部小さいけど立札がついてて、名前と種類と植えた日と、園芸部、って入ってた」
頬に小夜の視線を感じながら、亜月はゆっくりと目を向ける。
「――――― どうかした? 」
小夜は小さく口を開いて何か言いかけ、迷うように視線を彷徨わせてから、すっ、と息を吸い込んだ。
「朝、中庭にいたの? 」
硬い声。
「そうよ」
「あの、木の辺り? 」
「そうね」
強張っていく表情。
亜月はじっと小夜の変化を見つめていた。
少しずつ落ち着きがなくなり、息が乱れていくのを。
「……予鈴前……? 」
「もちろん。じゃないと、私遅刻しちゃうじゃない」
焦りなのか
怒りなのか
小夜の眦が吊り上がり、常の彼女と纏う空気さえ変わってくる。
「聞いた、の? 」
亜月はゆっくりと瞬きをして、殊更にゆっくりと問うた。
「聞いた、って。何を? 」
ふ、と息を詰めるような間。
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