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小夜が震える唇を開くより先に、亜月が言った。
「話が違う、っていうアレ? 」
小さく目を瞠り息を呑む小夜の表情が妙に滑稽に見えて、亜月は知らず口の端で笑う。
「小夜。あんた、いじめられてたの? 」
僅かな同情を滲ませた声。
意識したわけではなかった。
けれど、それが小夜の神経を逆撫でたようだった。
「なによ、それ。馬鹿にしてんの? 」
震える、苛立った声。握りしめた箸を音を立てて弁当箱の上に置く。
「いじめられてるのを見て、私のこと馬鹿にしてんの? 」
「馬鹿にしてんのは、そっちじゃないの」
小夜を見据えたまま鋭く言い返した。
「最初から、友達になる気なんてなかったんでしょ。あの人たちに焚き付けられたの? 私と友達になれたら、いじめないでいてあげる、って。あ、それとも、仲間にしてあげるとでも言われた? 」
勢いよく立ち上がった小夜の膝から弁当箱が転がり落ち、中身が地面の上に散らばる。
焦げ一つない玉子焼きの黄色が、皮肉なほど映えた。
震える両手を握りしめて、小夜は目に一杯の涙をためてそれでも亜月を睨みつける。
「何が分かるの。いつも一人でいて、一人が平気なあんたに、私の何が分かるの! 」
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