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『面白いことを言う。私はより深い闇を抱える者に依りつくだけだ。こやつの闇は甘美だぞ。ずっと虐げられてきた可哀想な娘』
「虐げられて……? 」
眉を寄せて問い返す亜月を、小夜の姿を借りた禍津神は、く、と鳥のように首を傾げて見る。
『知らないのか。この娘は、親ではない誰かの元で生活し、家事の一切を任されていたのだ。西洋の童話にあっただろう、何と言ったか……ああ、そうそう、灰かぶり姫、『シンデレラ』。それだ』
歌うような抑揚をつけて、楽しそうに語る禍津神を、亜月は目を瞠って見返した。
小夜は、両親と一緒にいるのではなかったのか。
あのいつもきれいに詰められた弁当は、彼女の手製だったのか。
焦げ一つない玉子焼きも。
知らなかった。
『孤独な娘。この世界に絶望したこの娘の内なる声は私には極上の糧となった。すべて消えてしまえ、とこの世を呪う甘美な歌』
ふふ、と笑って、小夜 ――――― 禍津神は目を細めた。
『さて。お前の呪詛もいただこうか。お前の闇もまた美味だからな。さあ、唱えるがいい。いつもの口癖を』
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