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――ごめんなさい。
そう思った時だった。
「太陽は、海に沈んでも戻ってくるだろう……?」
聞いたことのない、低くずっしりとした誰かの声。
「明日になれば、何事もなかったかのように、反対側から戻ってくる」
辺りを見回してもそれらしき人影はない。どこにも、ないのだ。
声は続ける。
「お前は、戻ってこられるか?」
「戻らない。私は何処へも」
これは、きっと幻聴だ。ただの幻だ。今の私は普通じゃない。そう思った。
「ここへ沈んだら、二度と元の姿に戻ることはない」
「構わないよ。もう」
「化け物になる気か。死して尚、さ迷うつもりか。……ならば、教えてやろう」
ごうっという音と共に、今まで吹いていた風とは違う突風が、私の体を押してゆく。
声を上げる暇もなかった。
私は海底へと引きずられ、ぐいぐいと暗闇の中へ押し込まれていった。二月の海はとても冷たく、私の全身に容赦なく突き刺さる。
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