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と、言った。高校時代、の響きのところに少しだけ悲しみが滲んだことに気づいたゆかりは自分の口許にまだ残していた笑いを引っ込めた。
ゆかりの頭の中で、高校時代の尚人のイメージにさやかの影が重なるのを止められない。
食器を下げようと立ち上がった尚人のことを「私が洗いますから」と、ソファに座ってもらう。
満腹以外の息苦しさをどうしたらいいかわからない。キッチンがリビングと対面でなくてよかったと思う。
半泣きになっていると自分でもわかる。
うつむいて食器を洗うことだけに専念していると、背中に温もりが張り付いてきて、驚いたゆかりは、洗っていた皿を床に取り落としてしまった。
割れた皿を拾い、掃除機で細かな破片を吸い込み、軽く床拭きし終えた尚人がソファに座るゆかりのところに戻ってきた。
ソファの前に片膝ついた尚人が眉を寄せてゆかりを見上げた。
「全く君は、そそっかしい……驚かせた俺が悪いんだが」
普段、見下ろされる側のゆかりは、見慣れない尚人の上目遣いにどきりとして思わず視線をそらせた。
「あの、これ、絆創膏でもよかったんじゃ」
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