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この場にいない、来る約束もない尚人に縋りたくなってしまう。尚人なら、こういう時どうするだろう。
「失礼いたします」
声に振り返れば、さっき部屋に案内してくれた仲居の女性がポットと湯呑み、お茶菓子を乗せたお盆を座卓に並べている。
ゆかりは、加代のしおりを撮ったスマホ画面を中居に見せてみる。ダメもとだ。きっと尚人ならあっさり諦めたりしないでなんとしてでも探そうとすると思ったから。
スマホを見せられて一瞬驚いた表情をした中居だったが、
「ああ、この花ね。私の小さい頃はよく咲いていましたよ。ちょうど今時分に、いっぱい。近頃見ないけど。えぇと、なんていう花だったかしら……」
と、ぽってりとした指を顎に当てて、小首を傾げた。
やっぱり花はあるんだ。希望が差し込んで一気に解決しそうな気持ちになってゆかりは勢いこんだ。
「あ、あのっ、この花がたくさん見られるところを知りたいんです」
するするっとにじりよるゆかりの剣幕に目を丸くした仲居が申し訳なさそうに、
「今年は、あまり見ないですねえ」
と言った。
「え……」
いっきに期待が膨らんでいただけに、ゆかりは肩を大きく落とした。
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