金の雨が降る夜に

２

幸せな空気を吸って胸の中をいっぱいに膨らませたい。
ただそれだけのことが、難しい。
何かに負けている気がする。
次に尚人が確実に取れそうな休みといえばお盆休み……。
尚人は休めるのだろうか。
あまり期待して、後でがっかりしたくない。
——期待、しすぎていたのかな。
自然、のろのろと歩いていたゆかりの耳に、女性たちのしゃべりごえが聞こえてきた。路面に面した旅行代理店、海外から国内まで、旅行カタログをいっぱいに差し込んだスチールスタンドを前に会社帰りの女性たちが三人立ち話をしているのだ。
「……最近彼とゆっくり会えてなかったから、二人で旅行でもしたいなー、って思ってるんだけど……」
「良いじゃない。二人きりで知らない場所へ行くとか、それだけで新鮮」
「気持ち、変わるよね。私もこの間彼と沖縄に行ったけど、彼、泳ぐのが上手なのよ。驚いちゃった。ちょっとマンネリ感じてたけど、久々にキュンとしちゃった」
「近くじゃダメ。遠くじゃないと」
「お金もかけなくちゃ」
　つい、聞き耳を立ててしまった。
　そうなんだ……。場所が変わるだけでそんなに気持ちって変わるものなんだろうか。