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 黒々としたひじきの塊を口に運んでゆかりは思わずにっこりと言った。ほかほかの白いご飯と煮汁を纏ったひじきが口の中で一体化する。隣に並べられたあじの塩焼きと豆腐の味噌汁と、冬瓜のそぼろあんかけに箸を伸ばしながら、 「課長……いえ、尚人さん、料理できたんですね」 と言うと、苦笑が帰ってきた。 「父の死でいっとき母が家事も手につかなくなった時、いやでも料理しなきゃいけなくなったからな。あの時作ったご飯は酷かった」 「その時の尚人さんのご飯も食べてみたいです」 「無理言うなよ。ゆかりに愛想尽かされたくない」 「そんな」 「ご飯も洗濯もやってもらうのが当たり前だったから、ほんとに何もできなかったんだ。炊飯器の水加減さえ満足にいかなかった。目盛を見て入れるだけなのに」  情けない顔で肩をすくめる尚人が妙に可愛く見えて、ゆかりはくすくす笑ってしまう。 「完璧じゃない尚人さんの料理、やっぱり、食べてみたいです。もぉ、満腹です。ごちそうさまでした」 と満面の笑みで箸を置くと、先に食べ終わって食事するゆかりを見ていた尚人が、 「高校時代の俺なんて、カッコ悪いだけだよ」
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