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 一度寝室から出た尚人が戻ってきた。  ゆかりのバッグを手にしている。  ゆかりが持ってきてくれるように頼んだからだ。  まだ体に熱がこもっているのかふらつく体を起こして、受け取ったバッグから持ち帰った旅行カタログを出すと、 「流星が見られる旅館? 長野か」 ベッドに腰掛けた尚人の腕が、カタログを持つゆかりのことを背中から囲い込んできた。  お揃いで買った半袖のパジャマは薄手のガーゼ生地で、湯上がりの汗を含んでしっとり肌に張り付いている。自分の背中に尚人の肉体(からだ)が押し付けられている感覚が生々しい。身のうちの逃がせない熱にゆかりは目を潤ませた。 「流れ星……ロマンチックでいいかなって……どう、ですか。旅館は地元の人たちが運営するこじんまりとしたものだそうなんですけど。近くに天文台があって、そこの星空観察会に無料で参加できるって書いてありますよ」  後ろから抱き締めてくる尚人の表情を確認できないことに不安を感じつつ言ってみた。  ふ、と尚人の吐いた息が左頬をかすめてゆく。
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