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「その翌日、ゆかりさん、あなたに拾ってもらったあのしおりを、洋司さんからプレゼントされたのよ」
「あ……」
図書館で加代に出会った時のことがよみがえる。何かひらめくものがあって、ゆかりはそれを確認したかったのだが、加代の歳を経て淡くにじむ虹彩は過去を追うのに忙しいのか、ゆかりのことを映しているようでいて、見ていない。
「私にはわからなかったの……」
その後、弟の容体が急変した。
あっけなく、弟は死んでしまった。
静養のために来たのにね。
弟が死んだ翌日。
彼は思いつめた表情で私の部屋にきた。
「……君たちには本当に申し訳ないことになってしまった」
何度も頭を下げられたわ。
訳がわからなかった。
そして、
「やらなきゃいけないことがある」
と出て行ったきり、帰ってこなかった。
後になって聞いたの。
洋司さんは私の父が送ったお金を持ち逃げしたんだって。
父は、私たちを心配して菓子や衣類、お金をだいぶ送ってくれていたのね。
知らなかった。
衣服は確かに届いていた。けれどお金なんて。私は受け取っていない。
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