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お金があると知っていれば変な遠慮をしたりしないで、お医者様を呼んでいた。 彼がお金を持ち去らなければ、弟は助けられたかもしれない。 だったら、彼は憎むべき相手。 許せない裏切りだわ。 でも。私は、とても混乱したの。 「混乱、ですか」  話の途中だったけれど、つい聞いてしまった。怒り、ではなくて混乱だったのか、と。 そうよ、と加代が頷いた。 「彼はとても潔癖な人。父が送ったお金を横取りして持ち去るなんてことできるはずがない。そのせいで弟が死んでしまうなんて。そんなひどいことをしながら、私と星空上げていたの? おかしい、って思った」 「でも、実際お金は盗まれた……」 「そう、ね……。そして彼は姿を消したまま。まるで私の知っている洋司さんと、知らない洋司さんがいるみたい……そのことに混乱したの」 「その後、加代さんはどうされたんですか」 「……どうもしないわ」 と加代は寂しげに笑った。 「私は名古屋に戻り、予定通り父の勧めた人と結婚して、いまに至るの」
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