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ゆかりが首を傾げると、京子も同じように首を傾げ愛想笑いを返してきた。
彼女は今年高校三年。この夏でアルバイトを辞めると聞いている。恋バナは大好物なお年頃だ。バツの悪そうな表情でスッと奥に隠れたところを見ると聞き耳と言うより勝手に聞こえてしまったのかもしれないけれど……失態を目撃されてしまった。少なくとも大人の女性がする態度じゃない。恋人との会話中に突っ伏すとか、コーヒーカップを倒しそうになるとか……もぉ、色々恥ずかしすぎる。
ハハハと、また機嫌良く笑った尚人が床流の前髪を撫でつけた。
「……君の性格でいきなり新しいことを始めるはずがない」
まだ話は続いていたようだった。
「きっとどこかで前職同様、事務をひっそりやってるんだろうと考えた。俺はとにかく手当たり次第会社を訪問しまくったよ。そしたらなぜか新規取引先を立て続けに開拓して、営業成績に貢献してしまった」
突然何を言い出したのだろう。
〈同棲→営業成績〉の話の流れについていけないゆかりがキョトンとしていると、尚人がふわりと微笑した。
あ、その笑顔。やっぱり好き……。
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