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ふ、と加代がため息をこぼしてテーブルに視線を落とした。
「私、悪い人間よね。ここ、主人と来たこともあるの。主人と空を見上げながら、私は彼のことを思っていたのよ。子供ができてからも……」
洋司という人のことが加代の心に棘のように突き刺さったままでいる。加代はその棘を抜けないままでいて、そのことを心にしまい込んで苦しんできたのだろう……閑かに。
「考えないようにしよう。もう、忘れようってしたのよ。でも、過去から伸びてくる、その手に腕を掴まれているの。そして私は、今でも……彼と見たあの光景の中に還りたい」
「流星は観察できても、この花の群落と一緒に見られる場所が見つけられないの。遠い記憶は儚くて曖昧で……。おばあちゃんっていやね」
ただ、あの瞬間が嘘や幻じゃなかったことを確認したいだけ。洋司さんと星を見上げたあの時で、私の中の何かが止まったままなのよ。
「孫も呆れているのよ。あと何回ここに通う気なの? って」
老人のわがままね、と続けた加代の言葉にゆかりは心を突かれた。
わがまま……。
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