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「いえね、よく咲く年もあるんですよ。でも、今年はねぇ」  ゆかりの落胆に同情したのか仲居は「私も、他に知っている人がいないか、聞いてみますね」と言った。  仲居の優しさは思わず涙ぐみそうになるくらいありがたかったけれど、同時に(時間がないのよ!)と大声をあげたくなる。  だめだ、テンパってる。尚人なら、こういう時、いや、どんな時だって、感情的になったりしない。 「あの、咲くとしたらどんな場所で」  せめて、手がかりの細い糸だけでも繋ぎたくて縋る気持ちで尋ねると、 「あぁ、それでしたら、この旅館の裏山でもよく咲いていましたよ」 ゆかりを安心させようとしている風に微笑みを浮かべて、仲居が言った。 「え、裏山ですか」 なんだ、結構近い場所じゃない。 ちょっと元気出てきたかも。 ゆかりは気を取り直して、窓の外を見た。  あ、甘くみてた……。  ジーパンにTシャツという出立ちで裏山に入ったゆかりは三十分もしないうちに自分の計画性のなさを後悔し始めていた。  何しろ進めば進むほど木々が生い茂り、すでに右も左もわからなくなっている。
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