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ゆかりは崖をよじ登るのをあきらめた。
「誰か、気づいてくれないかな。助けて。助けてー」
寂しい。助けを呼んでも独り言になってしまっている。あたりが閑かだから自分の声がはっきり聞こえるのがさらに物悲しい。
星を睨んでみる。
そのうちどの星を睨んでいたのか自分でもわからなくなった。
うっかりものの誰かが、大きなお皿いっぱい山盛りのグラニュー糖をこぼしてしまったかのよう。
尚人のマンションのベランダから見える星の数と違いすぎる。
鼻の奥がツンと熱をはらむ。改めて、寂しい。
「あ、スマホ……」
ふと気がついた。いや、ようやくというべきか。
——そうだ。スマホで助けを呼べばいいんだ。
慌ててズボンの後ろポケットから取り出したのだが。
「う……そ」
スマホは、画面が割れて見るも無残な状態だった。試しに電源スイッチを押してみる。割れた画面に光が浮かび上がったと思ったらすぐに真っ黒になってしまう。
完全にお釈迦だった。
これでは電話しようがない。もう旅館の人が頼りだ。ゆかりが帰ってきていないことに、
(お願い、早く気づいて!)
と祈ってみる。
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