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こんなことになるのなら、尚人の顔だけでも見てから来るのだった。
もう一つ、気づいてしまった。
——ここ、まさか熊なんて出ないでしょうね?
肌感覚以外の寒気にゾワゾワしながらゆかりは息を殺して周囲を見回した。
今までは、自分が落ちてきた崖の方ばかり見上げていたから。
ぐるりと見回して、固まった。
「これ……っ」
地面から何かが突き出していた。
白くて、硬いもの。ひと目でわかった。人骨だ。
立ちすくんだゆかりの目の前、加代のしおりに描かれていたあの白い花の群れが揺れていた。
「見つけた……」
星空と、白い花の海。
加代の話した光景そのもの。
せっかくこの花を、この場所を見つけたのに、このままでは教えることができない。
(私、このまま死んだりして)
自然と涙が溢れてくる。
会いたい。
頭の中に尚人の顔を思い浮かべようとするのだけれど、なぜかうまくいかない。尚人の顔に焦点を合わせようとすると、滲んでぼやけてうまく像を結べない。
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