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体育座りになって顔を膝の間に埋める。 不安でどうにかなりそう。 「かりー……ゆかりー」 (ふふっ、幻聴まで聞こえてきちゃった)  尚人の声が聞こえるはずがないのに。  喉が渇いたのでちょうど目の前に突き出していた草のつゆをなめる。普段なら絶対しないけど、少しでも生きながらえたい衝動が時分にこんなことをさせるんだと驚いてしまう。 「ゆかりー……」  また、聞こえてきた。 「幻聴のくせに、しつっこい」 (きっと今頃、あの新人の子といちゃついてるんだ)  理由なんてないけれど、自分の両肩を抱きしめながら、(それが正解なんだ)と思う。  課長と……いや、今は私の上司じゃないけど……あの超絶イケリーマン(=イケてるサラリーマン)月島尚人が、ドジでへなちょこな私なんかと付き合っていたことが奇跡だったんだ。そうだ、ぜんぶ夢。いっときの気まぐれ? 気の迷い。せめてお遊びであってはほしくない……。  お腹の中でぐらぐら煮え立つ感情をどうしたらいいかわからない。怒ればスッキリするのか、ここは泣くべきなのか。
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