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 胸の鼓動がおかしな具合に跳ね上がった。言われて嬉しくないはずない。でも唐突すぎる。心の準備が。いや他にも諸々と……親への挨拶とか、ハードルが高すぎる。同棲の方がまだマシな気がしてきた……逃げているだけかしら……。  ゆかりの戸惑いをよそに、尚人は左手のひらに右拳をぽん、と軽く当てると機嫌よくゆかりを見た。良いアイデアを思いついたとでも言うように。 「そうだな。それが良い。結婚しよう、ゆかり」  そんな……さらっと、言わないでください〜〜っ。  二十六のゆかりに、結婚という言葉の響きは独特だ。意識してないわけじゃない。いわゆる適齢期。尚人という恋人がいなければ焦っていたかもしれない。尚人の存在のおかげで(まぁ、三十までに結婚できればいっか……)という心の緩みが生まれている。 (それに……結婚って、面倒なんだもの) と、ゆかりは、とても尚人には言えないつぶやきを胸の中に押し込める。  姉の妙子の結婚を見ているから、結婚に至るまでの、親への報告〜両家の顔合わせ等々、一連の作業・手続きが面倒だな〜という思いが先に立ってしまうのだ。  同棲する?  結婚する?  突然言われても!
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