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——……結婚の方にオッケイしかけちゃった……。  コーヒーを飲みながら上目遣いに見た尚人は彼が若干落ち込んでいるようだった。でも今、「落ち込んでます?」なんて聞けば「え? 結婚してくれる? 実はもう結婚式場いくつか目をつけていて……ご両親にも相談しているんだ」なんて圧倒的なテンポの良さで、気づけばがっちり周りを固められかねない。  何しろ月島尚人はデキる男だ。一緒に仕事していた時から彼の決断と行動の速さにはいつも驚かされていたな、としばし回想にふけってしまう。  ……でも、その結果、がっかりされたら?  結婚生活、こんなんだったかー、となってしまったら?  結婚は一生モノという意識がゆかりにはある。 自分を選んで失敗したと尚人に思われるのは嫌。 慎重に、慎重に……。  そう自分に言い聞かせ、跳ね上がったままの心臓の鼓動をなだめようとする。  ……にも関わらず、年明けを待たずに結婚済み、なんて将来を思い浮かべ、ゆかりは、顔にのぼる熱を持て余している。 こうして二人はその年の五月、同棲し始めることになったのだった。
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