第一話 第二章

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 ついうっかり注文を受けてしまった! 事態が悪化して行く事に、僕は為す術も無い。  悩みながらも注文通りケトルに水を入れて火に掛け。  水が沸くまでの合間に、カウンター裏に置いてある棚の下側を探す。  昨日聞いた限りではこの辺りが飲み物系との事だったけど……。  開けた棚の中には古風な豆挽きや、コーヒー豆の袋らしき物が綺麗に並べ置かれていた。  良かった。こう言う所はちゃんとしている人らしい。  そして───あった! お目当ての日本茶缶を見付ける事が出来た。  幾つある缶の中から、自分が聞いた事のある物を手に取る。  手にした缶には“ほうじ茶”と、そう書かれている。ダメ元で缶の後ろを確認して見るも、  入れ方は等は特に書いていない。無情。余りにも無情。  だけどまだ大丈夫。僕は小さく頷き、下の棚から茶缶を手に、  上の棚からは急須と茶漉しを取り出す。  湯が沸くまでの束の間。必死にお婆ちゃんの家での記憶を掘り起こして、  お婆ちゃんが茶を淹れている姿を頭の中で反芻する。  あっているはずだ。多分これであっているはず。はず。  自信を持とうとすればするほどに、“こんな素人が入れた茶でお金を貰う事になる。”  そんな考えが頭に纏わり付いては緊張感を生み、それが体全体を徐々に包み込み初めた。     
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