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こんな形で温くさせるしか方法が思い付かない。
暫くしてミニタオルを外し、湯呑に手を軽く触れて温度を確認する。多分温い。
僕は別のミニタオルで湯呑を軽く拭い。カウンター向こうの女性客の前へと置く。
「お待たせしました、ほうじ茶です。」
「ありがとう。」
女性客は静やかに湯呑を手に取り、そっと口を着ける。
緊張の一瞬。少しでも湯に詳し人がさっきの僕を見れば怒るかも知れないが、
あれが僕に出来る全力だったんだ。こんな状況だ、大目に見てほしい。
内心で変な言い訳を考えながら祈る。そして。
「美味しいわ。ありがとう。」
茶を一口飲み終えた女性客は、控えめな笑顔と共にお礼を口にしてくれた。
その言葉を聞いた瞬間。息苦しさから開放された気分で、
自分が息を吸うのも忘れていたと気が付く。
乗り切った。乗り切ったんだ。僕を不思議な達成感が包み込む。
これで本当に一息がつける。
「ふう。所で此処の店長さんは?
ちょっと話したい事があるのだけれど。」
一息の時間はまさに一瞬。
女性客の言葉に達成感は脆くも崩れ去り、開放されたはずの息苦しが再び戻って来た。
これは絶体絶命。いや、冷静に考えればそんな事も無いか。
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