第一話 第三章

2/22
前へ
/69ページ
次へ
 小夜さんは小さく笑っては前を向き直し。 「それもそうね。ああ、でもそうなら。  君は頼み事を断れない。断った事が無い人なのかもね。  自分よりも他人を優先してしまう。」 『そんな人って偶に居るでしょ?』っと続ける小夜さん。  違う。とは答えられなかった。何故なら、  頼み事を断った記憶が直ぐに見付からなかったからだ。  そもそも僕は人に何かを頼まれる事が稀で、  稀だからこそ特に断らなかっただけ。  嫌な物は嫌だと何時だって断れる。だけど。  何故か僕は“断れる。”と、強い自信は持てなかった。  僕は自分よりも他人を優先していたのだろうか……。  そんな事をぼんやり考えていると。 「後はこの道を真っ直ぐ行くだけね。  表札には『深見(ふかみ)』って書かれてる家なんだけど。  ちょっと大きな家だから見逃す事は無いと思うわ。」  気が付くと小夜さんは既に立ち止まっていて、一歩ほど後ろに居た。  僕は後ろの小夜さんへと振り返る。 「本当にごめんなさいね。  仕事が抜けられそうなら私も手伝いに戻るから。  ああそれと、手伝いはあの喫茶店からと言ってもらえる?」 「え? それは別に構いませんが……。」  実際喫茶店からの手伝いだ。それを誇張する意味とは何だろう。     
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加