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笑顔の深見さんは自分用に持って来たコップを片手に取り、中の麦茶を一口飲み干す。
何だか喋り辛い様な。喋ったらいけない様な。そんな空気。
でも不思議と窮屈とは感じなかった。穏やかな間だ。
縁側でこんな風に過ごすなんて初めてで、しかも隣の人は今日知り合った他人。
疲れていて忘れていたけど、僕は今凄く不思議な時間を過ごしている。
僕は人と話すのは嫌いじゃない。でも、何を話したら良いかは何時も分からない。
だから誰かと二人っきりに成るのは好きじゃない。
それが今は、縁側でお婆さんと一緒に麦茶を飲んでいる。
無言で過ごしているけど息苦しさは感じない。
不思議だな、そう思いながらコップに口を着けて気が付く。
ゆっくり飲もうと思っていた麦茶がいつの間にか無くなっていた事に。
「それじゃあ。最後はあそこをお願いね。」
僕が麦茶を飲み干した事実に気が付くと、
深見さんはそう言いながら縁側の向こうを指を指す。
指された先を追って行くと───其処には大きな蔵が鎮座していた。
何かの冗談かと思い隣へ視線を戻すも。
「お願いね。」
深見さんは先ほどと同じ様な悪戯っ子な笑顔で、語尾を上げては短く答える。
その笑顔にはやっぱり何処か品があって、有無が言えそうに無い僕は。
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