第一話 第三章

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 梯子近くまで来た事で、音の出処は大凡分かっっている。音は梯子の隣に積まれた  荷持の隙間辺りから聞こえていた。  僕は梯子の眼の前に着くと、図らずも唾をゴクリと飲み込む。 「(これじゃ何か無くてもありそうじゃないか……。ええい!)」  意を決して音のした方へと体ごと懐中電灯の光を向ける。 「……?」  光の先には物が積まれているだけで、特におかしな物は無い。  油断した所で? と思いながら辺りを注意して見ても、やっぱり何も無い。  まあ、不思議体験なんてこんな物か。安堵の溜息が一つ漏れる。  と、不意に。“ふぁさり”なんて音と共に柔らかな感触を右腕に感じる。  何かが上から飛来し、僕が物音を確かめる為に向けて居た右腕落ちてきたらしい。 「───!───!」  心臓が飛び跳ねる程びっくりしたが、悲鳴も身じろぎも起こさない。起こせなかった。  僕は本当に驚いた時は身動き一つ出来ないらしい。  ああそう言えば。昔から僕は驚いても周りにはそうとは見えない、と良く言われてたっけ。  アイツも『顔面の筋肉が死んでるのか?』なんて失礼な事をほざいていたな。  じゃない。そうじゃない。現実から遠ざかろうとする自分の意識を引き戻す。  僕の右手には何かが乗っている感触が今も残っている。一体何が……。     
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