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清掃に使っていたモップに手を重ねて置き、更にその上に顎を乗せ。
ぼーっと思いを巡らせる。
「黄昏中?」
何時の間にか二階から下りて来た店長が、そう僕へ声を掛けて来た。
寝起き感の漂う店長はそのままカウンター席へと座る。
僕もモップを片付け、カウンター裏に回っては手を洗いながら。
「ちょっと知り合いの事を考えてました。」
「んー。」
店長はカウンターテーブルに頭を預け、応える。
コップに飲み物を注ぎながら。ふと、店長へ尋ねる。
「店長。この喫茶店に女学生が来た事ってあります?」
「んー?」
顔を上げた店長は目も開けずに唸り。
そしてまたカウンターテーブルへと顔を沈めた。
この様子だと覚えてないか、そもそも来てないか、かな?
店長の顔の横に飲み物を置き。洗い物をしながら。
来たかどうか分からない彼女の事を思い出す。何処か品があり、物怖じしない態度。
長めの髪が似合っていて。
「綺麗な子だったなぁ……。」
あれは幽霊だったのか。はたまた別の何かか。
もう会えないだろう誰かの事を、僕は少しだけ惜しんだ。
名前も知らぬ誰か、もう会えないであろう誰か───
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