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 今日はやけに体が動くなと山田は思った。特に足が軽く感じる。これなら素晴らしい記録が出そうだ。  自己ベストを一分以上も縮める会心の走りだった。山田はこの上もない充実感に満たされていた。 「気分はどう?」  最近知り合った走り屋仲間の川上が声をかけてきた。 「最高だよ。こんなに足が軽く感じて走れたことは今までになかった」 「それはよかった。心置きなくいけるね」 「いける?」  山田は眉を曇らせて川上に尋ねた。 「もう思い残すことはないだろ? 忘れたのか? 君は五日前に二度と走れなくなった足に絶望して、命を捨てたんじゃないか」 「あっ」  山田が自分の足を見ると、ほとんど見えないくらいに薄れていた。道理で足が軽かったわけだ。 「そうだったのか。さよなら」  足に続き、山田の全身が薄れていき、やがて何もなくなった。                                     終わり
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