0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
今日はやけに体が動くなと山田は思った。特に足が軽く感じる。これなら素晴らしい記録が出そうだ。
自己ベストを一分以上も縮める会心の走りだった。山田はこの上もない充実感に満たされていた。
「気分はどう?」
最近知り合った走り屋仲間の川上が声をかけてきた。
「最高だよ。こんなに足が軽く感じて走れたことは今までになかった」
「それはよかった。心置きなくいけるね」
「いける?」
山田は眉を曇らせて川上に尋ねた。
「もう思い残すことはないだろ? 忘れたのか? 君は五日前に二度と走れなくなった足に絶望して、命を捨てたんじゃないか」
「あっ」
山田が自分の足を見ると、ほとんど見えないくらいに薄れていた。道理で足が軽かったわけだ。
「そうだったのか。さよなら」
足に続き、山田の全身が薄れていき、やがて何もなくなった。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!