1 潜入《ダイブ》

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1 潜入《ダイブ》

 音声の感知レベルを人間並(ノーマル)にすると、とたんに自然界のあらゆるものが神秘的な響きを持ち始める。  海中は静かで、荘厳だ。潮流が低く響くのは、かすかな脈動に包まれているようで心地よい。単独任務を嫌がる同僚もいるが、私はちがう。ギムナジウムを卒業して任務に就くようになってからというもの、ひとりの時間の重要性は日増しに強くなっていく。  私の意識は小型の球体アバター――通称・ウイング――に憑依し、薄緑色の海中を航行している。センサーと特殊能力のつまった感覚のみの存在となって、およそ三〇〇メートル先を漂う生物の一群を監視している。  ――レイファ、調子はどう?  別のウイングで航行中のモニカから通信が届いた。同じ時間帯に勤務するのはめずらしい。彼女の映像が視界に浮かぶ。見慣れた童顔の親友はいつもの白猫を抱いている。  私は航行速度を調整しながら、彼女に返信する。  ――順調だよ。テラは26体全員、エリア5749を無事に遊泳中。  ――そう。私はこれから上がるわ。ところで、座標345、560、332のあたりは濃度が希薄だから注意して。  ――ありがと。  ――じゃあね、また明日。     
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