1 潜入《ダイブ》

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 モニカのイメージが消える。  私はモニカが示した座標との距離を測り、海中の成分分析に感覚を集中する。可視化されたデータが視界の隅に数値と立体グラフで示される。確かに、潮流の影響でスポットができているようだ。  私は海面近くを航行し、一定の速度で群れを追う。26体からなるその群れは、ひとかたまりになって、転がるように海中へ深く沈みこんでいく。  その生物は「テラ」と呼ばれる。  メロンほどの大きさで、三十二面体の肉体を持ち、人工羊水で満たされた海中を、群れをなして漂う。サッカーボールと同じ十二の正五角形と二十の正六角形からなる体表は淡い緑色で、複雑にうねる潮流に身をまかせている。  遠い暗色の深みへと沈み込んでいく彼らの姿は、遠くから見ると、エメラルド色の雪が海底へむかって降り注いでいくようだ。差し込む太陽光がたなびく中、きらきらと反射しているのはなんとも幻想的で、神秘的だ。  海中の透明度は高いが、水底は見えない。薄緑色の世界がどこまでもつづいている。  私は一度浮上し、海風を確かめる。海面は穏やかで、空気は清浄だ。海はただ広く、水平線はかすんで空と一体化している。     
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