1 潜入《ダイブ》

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 小惑星を改造して作られたこの惑星M86は炭素系生物が住むのに恒星との距離が理想的だ。大きさは月よりも小さく重力も弱いが、テラフォーミングにより環境は地球に近い。しかし、環境創造のために持ち込まれたほとんどの動植物は人工ウイルスにより死滅した。微生物を除き、この星で生きている動物はテラだけだ。栄養分が含まれた巨大な人工の海は惑星表面の三割を覆っていて、テラを飼育管理するためだけに用意されたとくべつな環境だ。  再び海中へ。今度は深く潜水し、群れに近づいていく。砂つぶのようだったテラたちが見る見る大きくなる。  惑星のように自転するテラの体表は海水から栄養分を吸収し、淡い太陽光がビタミンをみなぎらせている。彼らの体内には血液が流れ、神経伝達物質が行き交っている。  海流は、理想的な循環速度で、彼らを栄養分の豊かな深度まで沈めては、また海面近くまで浮かび上がらせ、定期的に日光にさらす。彼らには目がないので光は見えないが、感じることはできるだろう。皮膚は栄養を吸収する摂食器官であり、神経が張り巡らされた情報伝達器官でもあるのだ。  テラは身体から水を放出することで向きを変えたりもできる。これは反射的な運動で、仲間が発する微弱な電波を感じて寄り集まる。ときおり、彼らは流れの中で身体をぶつけ合う。その度に、触れた体表がほのかに脈打ち、反応する。神経は彼らの脳に電気信号を送る。その信号が見せる感覚が、彼らの感じる世界に影響を与える。  複数が連結したまま遊泳しているものもある。単細胞生物から多細胞生物への進化の過程を見るようだ。彼らは情報を伝達しあい、世界観を共有する。     
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