5 我感じる。故に我在り

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5 我感じる。故に我在り

 半透明の路面は摩擦の具合がちょうどよく設定されていて、靴底のブレードで蹴るとぐんぐん加速する。空気抵抗は少なめだが、顔に受ける風の感触はくっきりしている。ある速度を超えるとその見えない壁がなくなり、私は空気を切り裂く弾丸になる。  私はチューブ・スケートに興じていた。同伴させたオベロンはスケートに慣れていないようで、はるか後方に置き去りにしてしまった。  普段から運動していないと体力が加齢とともに落ちるのは生身と同じだ。逆に、こういうスポーツ施設やジムで普段から鍛えていれば、筋力や運動神経は際限なく鍛えられ、誰しもが旧時代のトップアスリート以上の身体能力を手にすることができる。  滑走に集中してハイになると、いつしかなにも聞こえなくなる。無音の陶酔の中を突き抜けるとき、私は自我というしがらみから解き放たれる。  スケートに誘ったのは私だ。今度の任務は長い。いつヘヴンに戻れるかわからないので、今のうちにここでしかできない遊びをしようと思ったのだ。     
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