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おもちゃの国
「ゆうくん、出したおもちゃはきちんとしまいなさいね」
「えぇ、だってこれ、もう古いもん。もういらなーい」
そう言って足元に転がっていたおもちゃの飛行機を爪先で蹴っ飛ばす。
がつん、と硬い音をたててそれは部屋の壁にぶつかった。若干、翼が歪んでしまったように見える。
買ってもらったのはもう随分前のことで、新品の時は鉄独特の色に輝いていたものだ。今は見る影もなくくすんでしまって、鈍い色を放っている。
「こら、おもちゃを乱暴に扱っちゃ駄目でしょ」
「いいもん、もうこれいらないから、ゴミだもん」
「ゆうくん!」
もうこんな汚いおもちゃはいらない。新しい綺麗な飛行機がほしい。
そんな思いからつい癇癪を起して、後ろから呼びかける母親の声を無視して部屋をかけ出た。
コントロールしきれない気持ちをどこに、どうぶつければ、どう昇華すればいいのか分からず、イライラを抱えたまま隣の畳の部屋で不貞寝することにした。
狐色に日焼けした畳の上に横になり、箪笥の足元の、まだ若く青いそれを指でなぞる。良い感じに日の光があたり、ぽかぽかと暖かい。
そよそよと開けていた窓から吹き込んでくる秋風が心地良い。
うとうとしてきた頭で、目の前で風に合わせて膨らんだりしぼんだりするカーテンに何とはなしに手を伸ばしてみた。細かに編まれたレースのカーテンは何かの汚れでわずかに黄ばんでいた。
「……あんなの、いらないんだ」
ぼそりと口に出した言葉になぜかきゅっと胸を締め付けられた気がした。
居心地の悪さを感じてずるずると畳を這ってカーテンに近付いた。日の暖かさで今にも眠ってしまいそうだ。
強めに吹いた風にカーテンが一際大きくなびいたのが見えた。
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