1人が本棚に入れています
本棚に追加
穴の中は一言でいえば意外と心地良かった。気付いてからはすぐに目を開いた。柔らかな木の幹に包まれるような感覚が大きな安心感をもたらし、最初こそ真下へ落ちるような穴っだったがそれもすぐになだらかなものへと変わった。何よりあの甘ったるい匂いが無いことにとても安堵した。
案外長く続いた下り坂のトンネルに軽く眠気を覚えてきた頃、急にトンネルが途切れて気が付くとメヌの腕の中だった。
「起きなさいな。私の部屋はそんなに心地良かったのかしら」
からかうように笑われ、眠気でとろけていた頭がはっきりする。だんだん顔に熱が集まるのがわかった。
「さっきのトンネルがメヌの部屋なの?」
「というよりも、ここまでの道のりからこの部屋までが私の部屋よ」
そう言うとメヌは腕を外した。
「さあ、ここからが大変なのよ」
「ここから……?」
「そう。まずは誰にも、あの兵隊たちにも見つからずにあなたが最初にいた場所へ戻るのよ」
森を移動中に事情を話してあったメヌが言うには、どうにも自分はこの国の人間ではないという。ゆう自身はいまいち意味がわからなかったが、メヌはゆうよりもゆうの置かれている状況を理解していて力になってくれるという。そこで元の国に戻るためにまずはこの国に来た最初の場所に戻らなければならないらしい。
「でも、どうやって戻ればいいの? すごく遠くに来ちゃったし」
「大丈夫よ、最初の場所に戻るまでなら、そんなに難しくはないの」
そう言うや、彼女は早い方がいいわねと言って奥の部屋へと引っ込んだ。その間暇を持て余して何とはなしにあった木製の窓から外を見れば、ここはすごく地下にあるはずなのに不思議と遥か高い位置から夕焼け空が眺められた。その空にはどこか見覚えのある翼の歪んだ飛行機が、飛行機雲を描きながら飛んでいた。
「ゆう、そこの階段を上ってきなさい」
呼ばれたので慌てて窓から顔を離してメヌの声の聞こえてきていた階段へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!