1人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、あなたとはここでお別れね」
「もう会えないの?」
「もう会えないの」
「……またここに来ても?」
控えめにそう言うと、メヌは大きな青い瞳をさらに見開いた。
「あなたはもうここに来てはいけないわ。ここは来てはいけなかった場所なの」
そう言って一度目を伏せてもう一度目を開いたとき、なぜか彼女の青い瞳が黒く見えた。そう言えば彼女はゆうの母親に似ている。とても色んな点において。
「さあ、もうそろそろ行きなさいな。賭けられる可能性が残っているうちに」
言ってすぐにメヌはゆうの乗った風船を押し上げた。下からの衝撃と突然生じた上昇気流で風船は急上昇した。
「あなたを送る風は、私の信じた運よ!」
だんだんと小さくなるメヌは張り上げた声でそう言った。
「うん、ありがとう、メヌ! 忘れないよ、絶対!」
メヌはまた面食らったような顔をして、大きくはない声で「忘れた方がいいのよ」と言った。さらにその後さらに小さな声で「あなたは忘れてしまうのよ」と。不思議とその声は聞こえたので、ゆうはもう一度さらに大きな声で言った。
「忘れないよ!」
言いきった頃にはメヌの姿も豆より小さくなっていた。しかしブリキ兵は雲に隠れでもしない限り見つけてしまうのだという。見上げればオレンジ色の雲はまだまだはるか頭上だ。
どうか見つかりませんように。そう願ったものの、こういう時に限って願いは叶えられず遠くの方から赤い軍団が蛇のようにくねくねと道に沿ってやってくるのが見えた。
どうか、どうか。痛むほどに手を握っていると下方でエンジン音とバラバラバラというプロペラ音が聞こえた。そうっと下をのぞき見ると、そこには大きな風船を隠すように翼の歪んだ飛行機が飛んでいた。
ありがとう、と小さく呟いて風船の影へ体を戻した。とても緊張していたようで、ほっと息をつくと途端に体の力が抜けてしまったのか急激な眠気に襲われた。
最初のコメントを投稿しよう!