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自分が涙を流すと、空も同じように色とりどりの結晶をすぐ近くでぱらぱらと降らせ始めた。きらきらと光りながら落ちてくるそれは砕いた飴のように見えた。試しに口を開けたままでいると、やはり入ってきた結晶は色のように味も様々に甘かった。それを口いっぱい溜めてから口を閉じて味を楽しむ。飴のように甘くて、本物のそれよりもはるかに薄く軽い結晶は口の中で咀嚼するたびにかりんかりんと軽く砕けていく。いつのまにか涙は止まっていた。
そうすると、次第にまた同じ橙色の雲の浮かぶ空高い夕暮れに戻っていった。
「……ここは、どこだろう」
不安定な感情の波が収まってきたら、今度は自分がいる場所が気になってくる。
自分は確かに畳の部屋で不貞寝を決め込んでいたはずで、決して外に出てなどいない。もし自分の寝相が最悪的に悪くて部屋の網戸を蹴破って外に出たのだとしても、自分の家の近所にこのような場所はない。
もしかして、ここは誰もいない世界なんだろうか。呼びかけに応じない母然り、これだけ騒いでも自分以外に何一つ生き物のいる気配のしない道然り。自分はもうここから帰れないのではないか。そんな考えが頭をよぎった。それでも先ほどのような不安は不思議と湧いてきはしなかった。
「そうだ、帰り道」
どうやってここに来たかわからない以上、元来た道がわからない。ゆうはあてのない中、あちこちを走り回り始めた。
ここにいたときから立っていた、赤茶色の長いレンガ道。いつかはその果てに着くのだろうと体力の許す限りに走ったけれど、走っても走ってもその道は長く長く地平線よりも向こうに続いている。
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