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胸やけするような酷い甘さはほとんど消えたが、今度はチョコレートのような甘ったるい味がした。まさかと思って別の草をちぎって咀嚼すれば、やはりチョコレートのような味がした。急いで草を吐き出して、おもむろに足元の土を手で抉り取って舐めてみた。草とは違う、少し苦いチョコレートの味がした。
訳も分からず恐ろしくなり、滑り降りてきた土手を急いで登る。半分のところまで登ったというところで遠くからガッシャン、ガッシャンと金属のぶつかるような音が聞こえてきた。しばらくそこで様子を見ていると、やってきたのは赤い隊服を着て、黒く長いロシア帽を被った兵隊だった。二列になって綺麗に隊列を組んで行進してくる彼らは、徐々に近づいてきた。よく見れば特に金属のようなものを身につけている様子はないのに、彼ら全体からガシャガシャと耳障りな音がしている。
彼らのうちの誰かに声をかければ水をくれるかもしれない。もしかしたら家への帰り方を知っているかもしれない。そう思って息を大きく吸い込んで、そこで止めた。
兵隊たちはガシャン、ガシャンとうるさいまま土手の道を進んでいって、ついには見えなくなった。
「はああっ、はーっ、はーっ」
大きく吸い込んだままだった息を吐き出すも、体の緊張は解けずその場にへたり込んだ。
「……にんげんじゃ、なかった……」
近付くにつれて見えた顔は暗い鈍色をして夕日の色を不気味に映していた。間違っても人の肌の色なんかではなかったのだ。
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