いばら姫は、森の奥。

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「でも、おふたりとも本当に運がよかったですよ。この商品は受注生産だもんで、普段は在庫がないんですよ」 その言葉に、琴音(ことね)怪訝(けげん)な顔をする。別の取引先への納入分を横取りしたのではないか、と。 「心配しないでください。先方都合で納期が延期になっていた分なので」 「まあ一週間ぐらい不眠不休で働けば、なんとかなりますよ」という本気とも冗談とも取れる台詞(せりふ)に、琴音は「ははは」と乾いた声で笑う。 しかも、「茨木(いばらき)さんは、美人なだけでなく、やさしいひとなんですね」と臆面(おくめん)もなく言うものだから、琴音はどぎまぎと返答に(きゅう)するのだった。 そのふたりのやりとりの後ろで、保志(ほし)が舌打ちしていたことなど、琴音は知る(よし)もなかった。
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